林業と技術革新
林業の研修会に参加しました。講演のテーマは(株)住友林業における再造林の取り組みについて、持続可能な森林経営の道についてです。
まず、国内の森林の状況について、林野庁のデータによると現在、戦後に植えられたスギ・ヒノキが成長し、木材として利用に適した時期を迎えています。
これらの人工林の伐採を進め、伐採後の再造林では花粉の少ない苗木などに植え替える取組を積極的に進めています。
一方、若い樹で構成される森林が少なく、伐採と再造林によって森林環境の循環を促す必要性が高まっているという状況です。
それには、樹の苗を育てなければなりません。
ここに課題があるのですが、かつて我が国が敗戦を迎え、復興の目的から急激に木材需要が高まった折、安い外国産木材を輸入しやすくしようと関税の撤廃を推進した歴史があります。
昭和26年に丸太関税撤廃、昭和39年には木材貿易完全自由化がなされました。
その結果、木材市場は安くて豊富な外材に席巻された過去があります。こうなれば、何らかの要因によって我が国への木材供給がストップした時に供給不足が起きるのです。
記憶に新しいところでは、2020年(2019年発生)から始まった武漢肺炎蔓延下における貿易制限からくる深刻な木材の供給不足でしょう。
ウッドショックという言葉を聞いたことがあるはずです。
苗木の話に戻しますと、先に説明した経緯から苗木生産量の急減、長期の植林需要低迷での苗木生産者の減少と高齢化によって量産化には技術革新が必要です。
住友林業の育苗の取り組みとして、農業で使用するようなマルチキャビティコンテナで育苗することによって効率化、量産化を図ること、ハウス生産による通年での生産と出荷を可能にすることが紹介されました。
ただ、設備投資にコストがかさむため、必然的に流通価格が通常の裸苗の2倍となることがデメリットとなります。
種子調達から出荷までに長くて10か月かかります。その間に播種、育苗、移植、育苗、屋外での馴化処理という工程を踏みます。
種子の発芽率も30%であるため、、手間を考えると非効率的とも言えます。
これに対し、九州大学と住友林業は、平成27年に赤外線による優良種子の選別が可能な技術の開発に成功したと説明を受けました。
この技術により、より確実な発芽が可能となったためにコンテナでの育苗が効率的になったということです。
次に、獣害対策についての話になります。生育した苗は山に運ばれて植えられます。そのままでは、鹿やウサギに食べられるリスクがあります。
そこで、住友林業としては苗を守る策がウッドポールシェルターという器具を使用しています。これは、半透明の生分解性樹脂で苗を取り囲み、木材の支柱によって自立することで食害から守ることが期待できます。
また、下草刈りにおいても、白色で目立つため、誤って刈り取る危険も少ないのです。また、環境面においても、チューブが生分解性のため不要になった際の持ち帰りもしなくてよいようです。一部、チューブと木製支柱をつなぐインシュロックが分解しないので撤去する必要があるようです。
苗木生産における技術革新が進みつつあるとはいえ、現状としては苗木を山に運ぶ林家の数が減少傾向にあるのは事実です。今後、普及が進むと考えられるコンテナ苗木は、通常の裸苗に比べて重量があり、運搬できる本数に限りがあります。
また、我が県の林地は急峻な地形のため架線集材の現場は運搬が人力となり、更に、高低差のある場所が多いのです。植栽地への人力による苗木の運搬には強度の労働が強いられるでしょう。
これを解決する取り組みがドローン技術の開発です。2018年から株式会社マゼックスと住友林業が共同で林業用ドローンを開発しています。15~25㎏の荷物を運搬できるドローンが会場に展示されていました。
ドローンの課題は、強風や突風に遭遇する危険性の高い山林においても、安定した運動性能を発揮できるものを開発する必要があることでしょう。
最後に、造林事業における機械化の促進、低コスト化、労働強度、安全性の改善、獣害対策などが今後の林業の課題であります。
私が思うに、次世代の人が林業に目を向け、林業を支える人材が育つには、労働環境に見合った賃金の確保が必要なのだと思います。
大きなところでいえば、時代に合わない貿易の自由化を見直し、関税の強化をすれば必然的に林業への投資が捗るはずです。時間はかかるでしょうが、それが国土を護るということなのでしょう。
松木たかし